大判例

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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)1029号 判決

控訴人(附帯被控訴人) 黛静

右訴訟代理人弁護士 河合弘之

右訴訟復代理人弁護士 竹内康二

同 西村国彦

被控訴人(附帯控訴人) 東和運輸倉庫株式会社

右代表者代表取締役 大橋冨次郎

被控訴人(附帯控訴人) 日下正義

右両名訴訟代理人弁護士 米津稜威雄

同 田井純

同 増田修

同 小澤彰

同 長嶋憲一

同 麦田浩一郎

同 若山正彦

被控訴人 根岸平八

〈ほか二名〉

右三名訴訟代理人弁護士 舘孫蔵

同 加毛修

同 川嶋義彦

主文

控訴人の本件控訴および当審で拡張した請求を棄却する。

附帯控訴に基づき原判決中附帯控訴人ら敗訴部分を次のとおり変更する。

附帯控訴人らは各自附帯被控訴人に対し金一三六万一二七〇円に対する昭和五〇年六月八日以降同年七月一日まで年五分の割合による金員を支払え。

附帯被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

一  求める判決

(一)  控訴人

1  原判決中控訴人敗訴部分を取消す。

2  控訴人に対し、被控訴人東和運輸倉庫株式会社、同日下正義は各自金二九一八万五一〇一円およびこれに対する昭和四二年九月八日以降右完済まで年五分の割合による金員を、被控訴人根岸平八、同本間五郎、同医療法人社団体整会は各自金三〇五四万六三七一円およびこれに対する昭和四二年九月八日以降右完済まで年五分の割合の金員をそれぞれ支払え(当審において請求元本金額を金一一五一万円から金三〇五四万六三七一円に増額した結果の請求の拡張)。

3  被控訴人根岸平八、同本間五郎、同医療法人社団体整会の請求を棄却する。

(二)  被控訴人ら

主文第一項と同旨。

(三)  附帯控訴人ら

1  原判決中附帯控訴人ら敗訴部分を取消す。

2  附帯被控訴人の附帯控訴人らに対する請求を棄却する。

(四)  附帯被控訴人

本件附帯控訴を棄却する。

二  主張

当事者の主張は次に附加、訂正、削除するほかは原判決事実欄第二(原判決四枚目―記録三〇丁―裏九行目から同二〇枚目―記録四六丁―裏八行目まで)記載のとおりであるからそれを引用する。

1  原判決六枚目―記録三二丁―表五行目の「金八七二、五七二円」を「金一、四五九、一〇六円」と、同表六行目の「金一六六、八〇〇円」を「金六四五、六〇〇円」と、同表七行目の「金一〇、五五〇円」を「金一五、五五〇円」と同表八行目の「金八八〇円」を「金一九、三八〇円」と、同表一〇行目の「金五四八、二八一円」を「金六三二、五一五円」と、同裏四行目の「金三〇、一六〇円」を「金四五、七二〇円」と、同裏五行目の「金三、六五〇、〇〇〇円」を「金一五、一八三、八〇〇円」と、同裏六行目から原判決七枚目―記録三三丁―表一行目まで全部を「控訴人は本件事故当時、洋裁業を営み、事故後六年間は毎年七一三、〇〇〇円づつ、事故後七年目は年間二、二〇一、〇〇〇円、八年目は年間二、八二七、二〇〇円、九年目は年間二、八三九、六〇〇円、一〇年目は年間三、〇三八、〇〇〇円の収入をあげえた筈であったのに、本件事故による受傷のため事故後一〇年間休業を余儀なくされたことにより、その間、右の合計一五、一八三、八〇〇円のうべかりし収入利益を失った。」と、同表二行目の「金一、八〇〇、〇〇〇円」を「金七、九〇五、六三五円」と、同表三行目から同裏三行目まで全部を「控訴人には本件事故による後遺障害として脊椎変形、両下肢不全麻痺があり、終生、その労働能力は従来の四分の三に減少した。そこで右労働能力喪失率(二五パーセント)、控訴人の年令(大正一三年一〇月一六日生)、就労可能年数(昭和五二年九月八日以降一四年間)、昭和五二年九月八日当時の年収額(金三、〇三八、〇〇〇円)を前提としてその逸失利益現価(年五分の中間利息をホフマン方式で控除。その係数は一〇、四〇九)を計算すると金七、九〇五、六三五円となる。」と、同裏四行目の「金四、九〇〇、〇〇〇円」を「金五、三〇〇、〇〇〇円」と、同裏六行目の「金三、九〇〇、〇〇〇円」を「金四、三〇〇、〇〇〇円」と、同裏七行目の「金四、九〇〇、〇〇〇円」を「金五、三〇〇、〇〇〇円」と、同裏八行目の「金一、一五〇、〇〇〇円」を「金二、九〇〇、〇〇〇円」と、同裏九行目から原判決八枚目―記録三四丁―表四行目まで全部を「右は弁護士費用を除く損害合計三〇、一〇七、六四一円から受領済自賠責保険金合計一、一〇〇、〇〇〇円を控除した残額の一割相当額(一万円以下切捨)である。」と、同表五行目の「金一、一〇〇、〇〇〇円」を「金二、四六一、二七〇円」と、同表八行目の「受領した。」を「受領し、さらに被控訴人東和運輸倉庫株式会社から金一、三六一、二七〇円の支払を受けた。」と、同表一一行目の「金一一、五一〇、〇〇〇円」を「金三〇、五四六、三七一円」とそれぞれあらため、同行から同裏一行目にかけての「(一〇、〇〇〇円未満切捨て)」を削除する。

2  同九枚目―記録三五丁―表五行目から同六行目にかけての「たとえ」を「かりに控訴人に」と、同七行目の「脊椎」を「第一二胸椎、第一腰椎」とそれぞれあらため、同行の「外傷」の次に「(軽い圧迫骨折または打撲傷)」を加える。

3  同一〇枚目―記録三六丁―表九行目から裏二行目まで全部を削除し、同裏三行目から四行目にかけての「次のとおりである。」を「本件事故により生じた第一二胸椎第一腰椎骨折を容易に気付かず、長く放置したことにある。すなわち、」とあらためる。

4  同一一枚目―記録三七丁―表一行目の「軽々に」を「軽々しく」と、同裏七行目の「以前に」を「以前の早い時期に」と、同行の「適切な治療」を「適切な検査診察により右脊椎の変形=骨折が判明し、これに適応した治療」と、同裏一〇行目の「限られ、」を「限られる。」とそれぞれあらため、同行の「それは」から次行の「超えるものではない。」までを削除する。

5  同一二枚目―記録三八丁―表二行目の「因果関係」の前に「相当」を加え、同行の「から、」から同表四行目の「義務がない」までを削除する。

6  同一九枚目―記録四五丁―表一行目の「打切り、」の次に「また被控訴人本間が右精密検査により脊椎カリエスの疑いを抱いたとしたならば、その旨を患者である控訴人に告げるべきであるのに、同被控訴人はこれを怠ったため、控訴人はその後適切な治療を受ける機会を失い。」を加える。

7  同二〇枚目―記録四六丁―裏二行目の「金一一、五一〇、〇〇〇円」を「金三〇、五四六、三七一円」とあらため、同行から次行にかけての「(一〇、〇〇〇円未満切捨て)」を削除し、同裏四行目の「昭和四三年」を「昭和四二年」とあらためる。

8  附帯控訴人東和運輸倉庫株式会社、同日下正義の主張。

附帯控訴人東和運輸倉庫株式会社は昭和五〇年七月一日、附帯被控訴人に対し本件事故に基づく損害賠償金一三六万一二七〇円およびこれに対する昭和四二年九月八日以降昭和五〇年六月七日までの年五分の割合による遅延損害金五二万七四九二円を支払った。

9  右主張に対する附帯被控訴人の答弁。

認める。

三  証拠《省略》

理由

一  控訴人(附帯被控訴人)の被控訴人(附帯控訴人)東和運輸倉庫株式会社、同日下正義に対する請求(当審拡張部分を含む。)の当否。

当裁判所は右請求は金一三六万一二七〇円に対する昭和五〇年六月八日以降同年七月一日まで年五分の割合の金員の連帯支払を求める限度において理由があり、その余は失当として棄却すべきものと考えるが、その理由は次に附加、訂正、削除するほかは原判決理由欄一(原判決二四枚目―記録五〇丁―表二行目から同三九枚目―記録六五丁―裏四行目まで。)と同一であるからそれを引用する。

1  原判決二四枚目―記録五〇丁―裏一および六行目の「証人」の前に「原審における」を、同裏八行目の「原告」の前に「原審および当審における」を、同裏九行目の「結果」の次に「(但しいずれも次記認定に副う部分)」を、同裏一〇行目の「原告」の前に「原審および当審における」を、同行の「結果は」の次に「右証拠に照らし」をそれぞれ加える。

2  同二五枚目―記録五一丁―表五行目の「初め」を「最初として」とあらためる。

3  同二六枚目―記録五二丁―表一一行目から同裏一行目にかけての「ないし激痛」を削除する。

4  同二八枚目―記録五四丁―表九行目の「写真に」の次に「よって」を、表一〇行目の「病変」の次に「(両椎体間の狭窄)」を、同行の「診断」の前に「その影像自体」をそれぞれ加え、同二九枚目―記録五五丁―裏七行目の「原告を」「原告に対し」とあらためる。

5  同三〇枚目―記録五六丁―表二行目の「この原因」を「両下肢麻痺の原因」と、同表三行目の「に関し」を「の変形にあり、右は」とそれぞれあらため、同表一一行目から同三三枚目―記録五九丁―裏八行目まで全部を次のとおりにあらためる。

「2 右認定事実によれば控訴人が本件事故により直接には頸部捻挫、右第四指中節部捻挫ないし挫傷、左臀部筋打撲挫傷、右肩胛関節打撲、左膝関節捻挫の傷害を受けたことは明らかである。

3 ところで控訴人は①本件事故の衝撃で控訴人は第一二胸椎第一腰椎圧迫骨折を受け、そのため脊椎変形、両下肢不全麻痺が生じた。②そうでなく、かりに脊椎変形、両下肢不全麻痺が脊椎カリエスによるものであるとしても、右カリエス罹患は本件事故により第一二胸椎、第一腰椎に軽い圧迫骨折または打撲傷を受けたことに起因するものであり、また本件事故前にカリエスに罹患していたとすれば、右外傷により既発の病状悪化して脊椎変形などが生じた、と主張するから以下、この点について検討する。

4 まず控訴人が本件事故の衝撃で第一二胸椎、第一腰椎に圧迫骨折を受けたか否かの点については、これに副うかのような《証拠省略》は、圧迫骨折を含めて骨折には通常、疼痛が生ずるが(このことは《証拠省略》により認められる。)、前記認定のように控訴人は本件事故直後頃、診察、治療に当った被控訴人根岸平八、同本間五郎らに対し同部位の痛みその他の異常についての訴えをしていないこと、控所人の脊椎変形および両下肢不全麻痺は脊椎カリエスの罹患によるものと推認されること(控訴人は自己が脊椎カリエスに罹患したことを極力否定するが、《証拠省略》を総合――特に控訴人の脊椎変形は骨折という一時的原因によるものではなく、結核菌の侵蝕というべき漸進的な椎間板の圧壊、両椎体の破壊の結果とみられること、控訴人には脊椎カリエスの三大特徴である亀背、麻痺、膿瘍のうち前二者が生じていること、第一二胸椎、第一腰椎は体重などの加重で病原菌である結核菌に対する抵抗力が弱く、カリエス多発病部位とされていること、もともと左程重症ではなかった控訴人の脊椎カリエスは抗結核剤の服用がなくても自然治癒の可能性があったことを――考慮すると控訴人の脊椎カリエス罹患は否定し難い。)からすると採用し難く、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。

従って控訴人の右①の主張は採用することができない。

5 次に控訴人の右②の主張も、もともと本件事故で控訴人が第一二胸椎、第一腰椎にその主張のような外傷を受けたこと自体につき、これに副う前掲証拠は前記のように本件事故直後頃、右部位の傷害、異常についての訴えがなされていないことに照らすと採用できず、ほかにこれを認めるに足りる証拠はなく、また本件事故前に控訴人が脊椎カリエスに罹患していたことを認めるに足りる証拠もないから採用することができない。

なお、かりに控訴人が本件事故で右部位に主張のような外傷を受け、これにより脊椎カリエスが生じたとしても、以下述べるように右受傷とカリエス罹患の間にはいわゆる相当因果関係を欠くから、この点からしても控訴人の主張は失当である。

すなわち外傷が脊椎カリエスの原因となりうるか否かについては《証拠省略》にはこれを肯定する記載部分があり、また原審における証人兼鑑定人本多純男(第一、二回)の証言ならびに鑑定の結果、当審における鑑定証人本多純男の鑑定証言、原審における証人兼鑑定人児島忠雄、同芹沢憲一の証言ならびに鑑定の結果、当審における鑑定証人伊丹康人の鑑定証言によればこれを肯定する見解、学説が存することが認められるが、同時に右証言、鑑定の結果によれば、脊椎カリエスは結核菌による骨、関節二次感染症であるが、この脊椎カリエスと外傷との因果関係を肯定する学者間においても、外傷による脊椎カリエス発生の割合は、あるいは二パーセント、あるいは六〇パーセントなどと区々に分れているうえ、一回の外傷では脊椎カリエスは発生せず、多数回の同一部位の外傷を条件とする、との説もあって、この点に関する定説らしきものは未だ存在しないこと、わが国における外傷起因の脊椎カリエスの臨床例は皆無に近いことがうかがわれ、また原審における証人兼鑑定人本多純男(第二回)の証言ならびに鑑定の結果によると、わが国における交通事故による外傷が増加(従って前記のように外傷を受け易い第一二胸椎、第一腰椎受傷の可能性も増加)するようになった昭和四〇年頃以降、逆に脊椎カリエスの発生数は減少し、交通事故による脊椎カリエスの症例報告はなされていないことがうかがわれることに照らすと、外傷と脊椎カリエスとの間に病理学上の因果関係が存したとしても、法律上のいわゆる相当因果関係を認めることができないと思われる。」

6  同三三枚目―記録五九丁―裏九行目の「(6)」を「6」とあらため、同裏一〇行目の「(1)(イ)ないし(ホ)」を削除する。

7  同三四枚目―記録六〇丁―表五行目から同表七行目まで全部を削除し、同裏一行目の「被告」から同裏二行目の「自賠法三条」までを「被控訴人日下は民法七〇九条、被控訴人会社は自賠法三条本文」とあらためる。

8  同三五枚目―記録六二丁―裏五行目および同三六枚目―記録六二丁―表五行目の「原告」の前に「原審における」をそれぞれ加え、同表四行目の「金七五〇、〇〇〇円」を「金七二〇、〇〇〇円」とあらためる。

9  同三七枚目―記録六三丁―表三行目の「端数」の前に「一万円以下の」を加え、同裏八行目から同三八枚目―記録六四丁―裏二行目まで全部を「控訴人の認容損害額、本件事案の性質などを考慮すると弁護士費用額としては金二〇〇、〇〇〇円が相当である。」とあらため、同裏一一行目の「(一(二)2)」を削除する。

10  同三九枚目―記録六五丁―表九行目から同裏四行目まで全部を次のとおりにあらためる。

「(六) そうすると被控訴人(附帯控訴人)東和運輸倉庫株式会社、同日下正義は控訴人(附帯被控訴人)に対し以上認定の損害合計二、四六一、二七〇円から受領済自賠責保険金一、一〇〇、〇〇〇円を控除した残額一、三六一、二七〇円およびこれに対する本件事故の翌日である昭和四二年九月八日以降右完済まで民法所定年五分の遅延損害金の連帯支払義務を負っていたことになるところ、被控訴人(附帯控訴人)東和運輸倉庫株式会社が昭和五〇年七月一日、控訴人(附帯被控訴人)に対し右損害賠償金一、三六一、二七〇円およびこれに対する昭和四二年九月八日以降昭和五〇年六月七日までの年五分の遅延損害金五二七、四九二円を支払ったことは当事者間に争いないから、結局、控訴人(附帯被控訴人)の被控訴人(附帯控訴人)東和運輸倉庫株式会社、同日下正義に対する請求は金一、三六一、二七〇円に対する昭和五〇年六月八日以降同年七月一日までの間の前記割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度において理由があり、その余は失当として棄却すべきものとなる。」

二  被控訴人根岸平八、同本間五郎、同医療法人社団体整会と控訴人間の本訴請求および反訴請求(当審拡張部分を含む。)の当否。

当裁判所は右被控訴人らの控訴人に対する本訴請求は理由があり、控訴人の右被控訴人らに対する反訴請求(当審拡張部分を含む。)は理由がないものと考えるが、その理由は次に附加、訂正、削除するほかは原判決理由欄二(原判決三九枚目―記録六五丁―裏五行目から同五〇枚目―記録七六丁―表三行目まで)のとおりであるからそれを引用する。

1  原判決三九枚目―記録六五丁―裏七行目の「第一事件」の前に「原審における」を加え、同裏一一行目から次丁表一行目にかけての「被告」を「原告」と、同表三行目の「内容」を「主張」と、同表六行目から七行目にかけての「被告」を「原告」とそれぞれあらためる。

2  原判決四二枚目―記録六八丁―表一一行目の「時期は」の次に「前記一、(二)、1の認定事実によれば」を、同裏一行目の「第二回目」の次に「(昭和四三年九月一三日)」をそれぞれ加え、同裏三行目の「なるが、」から同裏七行目の「できない。」までを「なり、当審における鑑定証人伊丹康人の鑑定証言によると患部に対するマッサージは脊椎カリエスに対する妥当な治療行為ではないことが認められるが、右鑑定証言によっても柔道整復師にすぎない被控訴人根岸にはもともと専門医にとっても診断が必ずしも容易ではない脊椎カリエスについての診断能力はなく、またこのような能力をもつことまでは要求されていないことが認められるから、この点をもって被控訴人根岸に過失ありということはできない。」とあらためる。

3  同四四枚目―記録七〇丁―表一〇行目の「尽する」を「尽す」とあらため、同裏四行目の「症状」の前に「また」を加え、同裏五行目の「である。」を「であり、」とあらため、同裏一〇行目の「本件」の前に「前記一、(二)で認定の」を加える。

4  同四五枚目―記録七一丁―表四行目の「右部分」を「右第四指、左臀部」とあらため、同裏三行目の「圧迫骨折」の次に「などの外傷」を加え、同行の「また」から同裏七行目の「から、」までを「当時は未だ脊椎カリエス罹患による脊椎変形などの徴候も現われていなかったのであるから、」とあらためる。

5  同四六枚目―記録七二丁―表二行目の「発見したが、」の次に「その影像自体必ずしも明確なものでなかったこと」を、同表六行目の「諸事情」の次に「および脊椎カリエス診断の困難性」を加え、同表七行目の「被告本間」から同裏三行目の「得ない。」までを「当時すでに発病していたと推認される控訴人の脊椎カリエスにつき被控訴人本間が確定的診断をしなかったことをもって過失ありということはできない。」とあらためる。

6  同四七枚目―記録七三丁―表九行目の「被告」の前に「原審および当審における」を、同裏四行目の「弟」の次に「(黛尚)」をそれぞれ加える。

7  同四八枚目―記録七四丁―裏一行目の「解されない。」の次に「また控訴人は右第二回目の診察に際し被控訴人本間が脊椎カリエスの疑いを抱きながらこれを控訴人に告げなかったことを非難し、原審および当審における被控訴人本間五郎本人尋問の結果によると、同被控訴人は右第二回目の診察に際し前記レントゲン写真上の第一二胸椎、第一腰椎の病変により脊椎カリエス罹患の疑いあることを感じたがこれを控訴人には告げなかったことが認められるが、《証拠省略》によると、右写真上にあらわれた病変はそれだけでは不明確なものであり、しかも果してそれが外傷(圧迫骨折)によるものか、癌転移によるものか、脊椎カリエスによるものか、結核菌以外の病原菌によって発生する骨髄炎によるものかを診断するにはさらに諸種の検査を必要とするものであったこと、脊椎カリエスは過去においては世人が嫌悪する結核菌による感染症であり、その確定的診断がなされた時期においてはともかく、その診断が不明、不確定な時期においては軽々しくその病名を患者に告知すべきではないとされていることが認められ、これらよりすれば右不告知をもって被控訴人本間の過失ということはできない。」を加える。

8  なお被控訴人根岸平八、同本間五郎、同医療法人社団体整会は当審第一七回口頭弁論期日において書面によらず口頭で、その債務不存在確認請求の対象債権を原判決添付第二目録記載の金七、三四〇、〇〇〇円から(控訴人が当審において請求を拡張した金額である)金三〇、五四六、三七一円に拡張する旨申立てたが、一審において全部勝訴の右被控訴人らが控訴審である当審において請求を拡張するには附帯控訴の方法によらなければならず(最判昭和三二・一二・一三民集一一・一三・二一四三)、附帯控訴は附帯控訴状を提出してなさなければならないから(民訴法三七四条)、右被控訴人らの口頭だけによる右請求の拡張(変更)は許されない。

三  結論

よって控訴人の本件控訴および当審で拡張した請求は理由がないものとして棄却し、附帯控訴に基づき附帯控訴人ら敗訴部分を主文第二項のとおりに変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条但書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉岡進 裁判官 吉江清景 上杉晴一郎)

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